世界

FVIとの協力関係の中で、海外パートナー団体が行っているプロジェクトをご紹介します。

002 南アジア インド・北部

抑圧された人々、ダリットたちの尊厳回復プログラム 南アジア インド 北部 最貧構想としてあえいでいるダリットの人々。自信と尊厳を失っている彼らと関わり。全ての人を等しく大切にするという愛の世界観によって次世代の人々を育成するラムスラットさんたちの働きを紹介します。

2013年,年間報告/2013年10月-2014年9月の年間活動方針と、2013年10月-12月報告

3年の活動の振り返り
-無意識に植えつけられた「物語」の変革が、人を生かす-

インド社会で長い年月、慣習上、最底辺の不可触民「ダリット」と呼ばれてきた人々の尊厳回復の新しい小さな試みが北インドのウッタル・プラデシュ州の一角で2010年10月に始まってから3年。現地リーダー、キショルさんと共に自らの確信に基づく研修を導き、フォロアップをしてきたラムスラットさんは今、その芽が少し成長した手ごたえを感じ始めている。その研修の中心に置いたことは、知らないうちに自分たちの心に植えつけられてきた「社会と人についての偽りの物語」を書き換えることだった。

 この社会に伝わる物語では「人はそれぞれの家系が、神の頭、胴体、下肢、そしてそれ以下に位置づけられ、それぞれの階層に所属する家系から生まれた人は生まれた階層を決して変えることはできない。」と教えられる。この階層に基づいた行動様式を生まれた途端から、教え込まれ、要求されるのだ。教育を受けられないことも、人間以下の扱いを受けて無抵抗でいることも、自由もなく最低限の生活の保証もないまま極貧の生活に喘ぐことも、その家系に生まれた「宿命」とされてきた。「人は、どのように造られたのか。」知らずに受け入れてきた物語を書き換えない限り、彼らにはこの社会で生きていく望みがないのだ。

そのなかで、「ダリット」の家族に生まれ、劣等感と人への恐れに苦しんでいたラムスラットさんは、それらから自分を解放してくれた「物語」に出会った。この「物語」は彼を虐げられている人々のために大胆に声をあげる者へと変えてくれた。彼は、この「物語」をこのカースト社会で苦しんできたすべての人々の間で書き換えることを使命と受け取っている。

 彼は「すべての人が本当の神の驚くべき貴い性質に似せて造られた!」というメッセージで新しい「物語」を始めた。知識もなく、教育を受けることもできずに人に見下されてこき使われ、貧しさに喘ぐというどん底であっても、それが本来の自分の姿だと考える必要はないと力説する。まだ埋もれている驚くべき性質と能力が与えられていることを強調するのだ。

この社会が継承してきた物語は、ダリットばかりではなく、人間として認められても「下肢」の部分に位置づけられて「奴隷」の処遇を受けてきたインドの人口の約半数を占める人々にとっても厳しいものだった。彼らはダリットより少しはましであっても、上層階級にこき使われてきたのだ。ラムスラットさんは、この社会を本当に変えていくには、ダリットだけのための尊厳回復の取組みにとどめるのでなく、抑圧されてきたすべての人と連帯すべきだとこの3年間、確信を深めてきた。
今では「その他の後進カースト」と位置づけられる人々にも「物語」の書き換えの研修を始めている。これによって、村々ではこれらの階層間の隔ての垣根が少しずつ、崩れ始めてきた。
「抑圧された多数の人々の尊厳回復」こそ、インド社会全体が目指すべきことだとラムスラットさんは確信している。

3年の間に蒔かれたからし種と、その広がり

3年を経た「物語」の書き換えの研修が、自分の全人生、社会での人との関わりを劇的に変えることを経験し始めた村人たちが、今、あちらこちらの村で現れ始めている。人としての尊厳が回復され、健全な自信に満ちて様々な場で発言をし、行動を起こし始めたのだ。蒔かれたからし種から、芽が出てきたように。彼らは村人たちから疑念と驚きを持たれながらも、今まで忌み嫌われてきた自分より下の階級の人々の家を訪問し、食事を共にする機会をもち、普通に会話を交わすようにもなった。彼らの行動は、はるか昔からこの「物語」こそ、唯一の規範だと思っていた村人たちの間に、反発と同時に静かな覚醒と関心の高まりを生み出している。

この3年間、あちらこちらで人が変えられてきた。
その変えられた人々が主体性を発揮し、村全体に変革の輪が広がる兆しが見えてきている。

2013年10月-2014年9月の年間活動方針

2013年10-11月にラムスラットさん、現地のリーダー・キショルさんがこの3年間の活動の成果を振り返り、次の段階の活動方針を検討し話し合った。またその案をそれぞれの村の核となる人々に提示し、意見を聞き調整してきた。その結果、2つの取組みが提案され、支持された。

 一つは、今までの3年で、この「物語の変革」が自分の生きる土台になった人々が、主体的にそれぞれの村で訪問や話し合いや食事会などをさらに広げていくことだ。村レベルで「新しい物語」の知識と実践の輪を広げていこうとしている。
 もうひとつは、郡全体の変革に熱い思いを抱くようになった地域のリーダー、キショルさんが提案した、今まで関係の乏しかった地域のリーダーたちとのネットワークを開拓し、郡を網羅することを目指して研修の機会を広げることだ。

その手始めに、12月の終わりには、インド全体で活動している「全インド後進・少数派労働者連合」の州年次大会に村々の中心になる20人近くの人々が出席した。その大会に出席した何人もが、今まで知らされてこなかった視点で歴史を学ぶことで「なぜ、自分たちが今、このような状態に置かれているか」がはっきり見えてくる、と学ぶ視点の大切さを一層、痛感したと感想を述べていた。

 彼らが自らと同時に、地域社会で「物語」を書き換える新しいスタートが始まっている。